11.寒流


涙さえ 凍る北の海に
住みなれた 男の
さよならは 冷めたい
あの女(こ)には すまないが
親子三代の
骨をうずめる
納沙布は 納沙布は
俺の ゆりかご

あのひとの 長い髪をつつむ
水色の 角巻
だきしめて 別れた
あの日から ひとつずつ
消した カレンダーの
赤い インクは
逢いたさの 逢いたさの
熱い 炎よ

アザラシの 群れが啼いて暮れる
流氷の 彼方に
夕月が のぼれば
荒くれた この俺の
胸の丸窓に
すてた 故郷の
妹や 弟の
顔が うかぶよ